東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)87号 判決
原告 塚田清
被告 栃木県選挙管理委員会
〔抄 録〕
原告は本件決定には不告不理の原則に反する審理に基づく違法があると主張する。原告のこの点に関する主張とするところは、選管は異議申出の審理において異議の事由に拘束されるので、異議申出人が指摘した投票以外の投票を職権で調査点検し、その有効無効を判断して決定の資料とすることは違法であるというに帰するので、この点について判断を加える。法第二〇六条第一項が、選挙人又は候補者に異議申出の権利を認めたのは、専ら公益のために管理をして当選の効力に影響ある事項を調査せしめ、当選人の決定に違法があればこれを矯正せしめるにあるから、苟しくも異議申出があつた以上選管において異議申出人の指摘した投票以外の投票についても職権をもつて点検調査し、その有効無効を判定することも許されるものと解するのが相当である。さればこの点に関する原告の主張は独自の見解に基づくもので採用の限りでない。
原告は、本件決定手続には法第二一六条によつて準用される行政不服審査法第二九条第二項、第二四条第一項に違反する違法があると主張する。しかし、被告が本件検証について異議申出人に立会の機会を与えなかつたとの点については、被告が投票を検証したのが異議申出人の検証申立に基づくものであることを肯認すべきなんらの資料もないのでこの点を捉えて行政不服審査法第二九条第二項に違反するとなし得ないのみならず、もともと利害相反する立場の原告が異議申出人に検証立会の機会を与えなかつたことを非難、攻撃することはそれ自体失当である。
また、本件審理において原告に立会の機会を与えなかつたとの点については、行政不服審査法第二四条第一項の解釈として、審査庁は積極的に利害関係人に対して異議申出のあつた事実を通知する等の方法で立会の機会を与える義務を負つているものとはいい得ないから、これと異なる見解に基づく原告の主張も独自のもので採用できない。
さらに、原告は本件決定は憲法に違反すると主張するのでこの点について検討を加える。なるほど、現行憲法の下における国民の選挙権は民主主義の基本をなす重要な権利であつて、これを尊重すべきことは原告の主張するとおりであるが、当選の効力に関する異議申出の審査手続において当選人に対して積極的に参加の機会を与える措置を講じないとしてもそれが直ちに国民の選挙権を軽視したものということはできない。蓋し、選管の審査手続において、当選人に対して参加の機会を与えるべきかどうかの問題は、たんに選管の決定が公正になされるための担保の一方法として考慮すべきかどうかの技術的問題にすぎず、国民の選挙権とは直接にはかかわりがないからである。当選人が参加の機会を与えられないため選管の決定が公正に行なわれなかつた場合には、その決定に対して不服を申し立てれば足りるのであつて、要は選管の決定が公正に行なわれたかどうかであり、国民の選挙権にはなんらの消長がない。それ故、被告が本件異議申出に関する審査手続において申立のなかつた原告を参加せしめなかつたとしてもそのことから国民の選挙権を軽視したものということはできない。従つてこの点に関する原告の主張も排斥を免れない。
(長谷部 石田実 麻上)